日本でもやたら盛り上がっているウォッシュト・アウトに隠れて、こちらもチルウェイヴというジャンルを代表する存在であるメモリー・テープス(Memory Tapes)の新作もほぼ同タイミングでリリースされた。
メモリー・テープスはDayve Hawkなる人物のソロ・プロジェクトであるが、彼は他にもいくつかの名義を使い分けており、ややこしい。過去にピッチフォークのインタヴューで一応、その辺の区別について自身の口から説明されている。
The first name I had was Weird Tapes, which I got from this Hawkwind bootleg series(!). Memory Cassette was supposed to be a feminine alter-ego to Weird Tapes-- that name came from old computers and synthesizers that had cassette memory. The full-length will come out as Memory Tapes, which is obviously a combination between the two.
歌声を差し引けば彼にとっての"feminine alter-ego"というのは一種のニュアンスの問題なのだろうが、リンクを貼った二曲を聴き比べればその違いは容易に把握できる。そして、同じ人間がひとつの作品集を出すうえで、背反するペルソナを強引にくっつける…という発想も理にかなっている(カセットだのテープだのといったタームが、アメリカを中心に見直されているアナログ・ムーヴメントの気分をストレートに掬い取っていることは今さら強調するまでもないだろう)。
メモリー・テープス名義での最初のアルバムとなる『Seek Magic』(2009)は百花絢爛(玉石混合)となるブレイク前後のチルウェイヴ・シーンにおけるひとつの極致として、世界的に高い評価を浴びた。インディー・ギターポップとバレアリック・ディスコの程よい配合と、Dayve独自の隠遁感覚のブレンドによる、ジャングリーなリズムと冷ややかな熱の籠もったシンセの音色がもたらす高揚感。キラーチューン「Bicycle」に顕著だが、それはまぎれもないダンス・レコードだった。タフ・アライアンスが設立したレーベル<Sincery Yours>からのリリースというのも印象的で、まさしく彼らやエール・フランスの延長線上にあるべきクールな作品である。
その後いくつかのリミックス仕事に(本人のブログで丁寧に整理されている)、トロ・イ・モワやクラウド・ナッシングらを擁する<Carpark>に移籍しての本作となるわけだが、さいしょに聴いたとき思わず手を叩いて笑ってしまった。頭の悪い音楽ジャーナリズムにおける最頻出クリシェのひとつ"おもちゃ箱をひっくり返したような"をこれでもかと体現する、ポップで衒いもなさすぎるシンセ音に一発ノックアウト(実際、アルバムの冒頭と末尾の曲名は「musicbox」=オルゴール!)。こうきたか!
ほわんほわん鳴る幻想的な音響、曲終盤での潔いギターソロ、そしてシンガーとして思い切り出ずっぱりな(必死になって背景に溶け込もうとするチルウェイヴ・マナーの対極に位置する)Dayveの自己主張っぷり! 二曲目の「Wait In The Dark」からして珠玉の内容である。以降につづくのも"クール"なんて言葉とは真逆の、呆れるほどロマンチックで果敢なポップ・ソングだ。孤独や悪夢を題材にしながらも、微笑ましいまでにチャーミング。
明らかにオールド・マナー回帰した作曲法について、あるレヴューでは「Motown-by-way-of-MIDI」なんて表現がされていたが、このあたりの変化は本人が制作過程で聴いていたという音楽を探るとナルホドとなる。
本人制作のアウトトラックとお気に入り曲をまとめたミックステープは、チルウェイヴァーたち全体の大インスピレーション源とも受け止められる。整理しよう。
01 Memory Tapes- “Fell Thru Ice 2″
02 The Cookies- “I Never Dreamed”
03 Celestial Choir- “Stand On The Word”
04 Lindisfarne- “Lady Eleanor”
05 Gandalf – “Me About You”
06 Amnesty – “We Have Love”
07 Anna – “Systems Breaking Down”
08 Memory Tapes – “Worries”
09 David Bowie – “Win”
10 Funkadelic – “March To The Witch’s Castle”
11 Black Keys – “Too Afraid To Love You (Memory Tapes Version)”
12 Memory Tapes – “Fell Thru Ice”
13 Memory Tapes – (music from Scott Eastwood art show)
14 Memory Tapes – “No. 79″
60'sガールズ・ポップにサイケ、古の英国フォークからファンクにガラージ、デヴィッド・ボウイ(ウォーペイントによる「Ashes To Ashes」白眉カヴァーもある意味でチル~的だったが、2011年のいま重要なのはベルリン三部作より『Young Americans』なのだなーとこの曲を再聴して実感)などジャンルはそれぞれだが、曲名を眺めただけでも逃避的で、通して聴くと幻想的かつダルい。まさに、リンディスファーンによる4曲目が収録された1970年作のアルバムのタイトル『Nicely Out Of Tune(素敵に調子外れ)』とでもいうべきか。
それで『Player Piano』に話を戻すと、その崩れ落ちんばかりに脆い人間的な感情を、精微な機械に再現させたかのようなところにサウンドの妙がある。音としては彼がかつて在籍し、解散してしまったアートバンドHail Socialの音楽性に一番近く、それらを強引に独力で構築し直しているかのようで、箱庭感もそこから生じているのだろう。生演奏も多くフィーチャーされているが、あまりにツルツルにトリートメントさせられた音響が有機性をスポイルしきっている。ピッチフォークのレヴュアーは"shopping mall karaoke booths"だの"unfinished, demo-level"だのとこき下ろしているが、その平坦な2Dサラウンドには香ばしい情緒が転がっている。なによりメロディがとろけんばかりに甘美だ。
↑まさしく「人間解体」なPV!!!!
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