2011年7月16日土曜日

Dave Stewart & Barbara Gaskin-Broken Records - The Singles(1987)


前回の記事で「Motown-by-way-of-MIDI」なんて表現が出てきたが、そういえば最近このレコードをよく聴いている。これは1987年に日本のMIDIレコードによって編纂された国内企画盤であり(今もバックカタログの記載が。偉い!)、2010年にはアルカンジェロからボートラ付で紙ジャケ化もされている人気作。80年代の流行を反映させた端正なシンセ・ポップが収録されているが、そこにはモータウンをはじめ、60年代ポップスへの愛が花開いているのであった…! とか、強引にこじつけてしまったようだけど80'sリヴァイヴァル全盛のいま聴き返すと、あらまあ。新鮮な響きがするではないですか。ドンピシャ。


デイヴ・スチュワートといえば、70年代にはイギリス、カンタベリー・ロックの旗手として名を馳せた名キーボーディスト。エッグ~カーン~ハットフィールド&ザ・ノース~ギルガメッシュ~ブラッフォードと錚々たるバンドを渡り歩き、名プレイの数々を残してきた。バーバラ・ガスキンはスパイロジャイラというフォーク・バンドのヴォーカルで、ハットフィールド&ザ・ノースを支える女性コーラス隊ノーランズの一員でもあった。…かなり大雑把な説明だが、複雑極まりないカンタベリー界隈のファミリー・ツリーなんていちいち書き連ねていたら日が暮れる。ここでは"プログレやってたすごい人たち"ということにでもしておこう。

ジャズを中心にクロスオーヴァーで入り組んだ、まさにカンタベリー・ロック丸出しな音楽性を志向しつづけてきたデイヴだが、80年代に入るとプログレは斜陽の時代に。かのキング・クリムゾンも1981年にはリーグ・オブ・ジェントルメン(元XTCのバリー・アンドリューズなどポストパンク人脈が在籍、今聴いてもかっこいいな!)を経て再結成。永遠の賛否両論作『Dicipline』も同年リリースされた。
で、そのクリムゾンにドラムのビル・ブラッフォードが参加したため、先述の(バンドのほうの)ブラッフォードも解散。デイヴさんは一瞬、R.E.M.(Rapid Eye Movement)なるバンド(!)を結成するも長続きせず(検索したらすぐにこんなの出てきましたが自己責任で。XTCの曲とかやってたのかな?)。そしてこちらも同じく81年にソロ活動を開始。クリムゾンと同様に、ニューウェーヴ・テイストをふんだんに盛り込んだ内容へと大転換していったのだった。



ソロ・デビュー曲「What Becomes of the Broken Hearted」はジミー・ラフィンによるモータウン名曲のカヴァー。歌うは(つい先日、来日公演を終えたばかりな)ゾンビーズのコリン・ブランストーン。この組み合わせもいいじゃない!
(*この曲は、現在だと日本企画盤第2弾にあたるこのアルバムのボートラとして入手可能。ややこしいですな)

そして次作からはバーバラをパートナーに据え、淡い郷愁といい意味のベタさ、当時の先端サウンドをブレンドしたヒット路線を歩んでいくのである。A面にカヴァー、B面にデイヴ作曲の自作曲という体制でシングルを連発していく。



「It's My Party」 トップ・オブ・ザ・ポップス(というイギリスの音楽番組)からの時代を感じさせる動画。原曲は女性オールディーズ歌手、レスリー・ゴーア63年作…んもう、ストライク! イントロのインチキくさいエフェクト~清涼感あふれるシンセ、透き通った歌声…。動画をご覧のとおりで英チャート一位にも輝いたが、2011年に発表しても結構イケると思う!(関係ないけど、レスリー・ゴーアといえばブロウ・モンキーズによるこのカヴァーもいい)



「I'm in a Different World」 こちらの原曲はフォー・トップス。ここまで3曲をカヴァーと原曲で聴き比べればよくわかるように、独特な浮遊感とともにかなり湿っぽく感傷的に響くよう、かなり大胆に手が加えられており、この辺はさすがプログレ上がりのデイヴさん。

それで、「It's My Party」も「I'm in a Different World」も、歌詞が秀逸なのである。

"誕生日パーティーなのに大好きなジョニーはジュディの手を引いてどこかへ行っちゃった。もういい! 大好きなレコードをかけて、ひとりで夜通し踊ってやるんだから! 悲しくなんてないもん…あれ、目から汗が…(号泣)"というのが前者の邦題「涙のバースデイ・パーティー」(クインシー・ジョーンズが手掛けた最初のヒット曲であり、最近ではエイミー・ワインハウスもこの曲をカヴァー、その精神はロビンの2010年名曲「Dancing on My Own」へと引き継がれている)。

かたや「I'm in a Different World」は出だしからして"この浮き沈みの世の中で、僕の夢は全て駄目になる/何をやっても物事が上手く行かない"である。負け犬同様の人生を歩んできたけど、君の愛のおかげでいま…僕はとても甘美で誠実な、これまでとは違う世界にいるんだ…! って、どっちもダメダメすぎるだろ!


スチュワート/ガスキンの魅力は、これらの甘酸っぱくいなたい古のポップスを、まさしく"違う世界"と表現すべき、美しく凝った電子サウンドと抑揚に乏しいフィメール・ヴォイスで武装したことにあるだろう。真新しい手法というわけではないが、彼らの場合はところどころ滲み出る教養やプログレ臭のせいかミステリアスで浮世離れな感覚をもたらし、その味わいは2011年のシンセ・ミュージックと並べてもふしぎと遜色や違和感はない。それはさておき、中村とうよう氏は当時のミューマガ・クロスレヴューでスチュワート/ガスキンを「イヤな音楽だなぁ」と評しているけど(ちなみに10点満点で1点)、もしも氏がチルウェイヴ勢の楽曲を聴いたらどんな顔するのだろう。


アルバムについての話をぜんぜんしてなかった。この企画盤も当時のシングル同様にカヴァーとオリジナルをA/B面に並べた構成。デイヴの自作曲もいかにも英国チックな社会風刺ユーモアが冴えていて良い。
また、一連のオールディーズ・ソングに交じって、なぜかエレポップ界のマッド・サイエンティストことトーマス・ドルビーのデビュー・シングルB面曲「Leipzig」もカヴァーされているが、元々のシングルをプロデュースを手掛けたのはかのアンディ・パートリッジ。デイヴ自身も当時XTCに相当入れ込んでいたのか、先述の企画盤第2弾には彼らの「Roads Girdle The Globe」のカヴァーも収録されている。 


*詳しいリリース遍歴やデータについてはこちらのサイトが詳しいです。リスペクト!

2011年7月13日水曜日

Memory Tapes – Player Piano(2011)



日本でもやたら盛り上がっているウォッシュト・アウトに隠れて、こちらもチルウェイヴというジャンルを代表する存在であるメモリー・テープス(Memory Tapes)の新作もほぼ同タイミングでリリースされた。
メモリー・テープスはDayve Hawkなる人物のソロ・プロジェクトであるが、彼は他にもいくつかの名義を使い分けており、ややこしい。過去にピッチフォークのインタヴューで一応、その辺の区別について自身の口から説明されている。

The first name I had was Weird Tapes, which I got from this Hawkwind bootleg series(!). Memory Cassette was supposed to be a feminine alter-ego to Weird Tapes-- that name came from old computers and synthesizers that had cassette memory. The full-length will come out as Memory Tapes, which is obviously a combination between the two.
歌声を差し引けば彼にとっての"feminine alter-ego"というのは一種のニュアンスの問題なのだろうが、リンクを貼った二曲を聴き比べればその違いは容易に把握できる。そして、同じ人間がひとつの作品集を出すうえで、背反するペルソナを強引にくっつける…という発想も理にかなっている(カセットだのテープだのといったタームが、アメリカを中心に見直されているアナログ・ムーヴメントの気分をストレートに掬い取っていることは今さら強調するまでもないだろう)。




メモリー・テープス名義での最初のアルバムとなる『Seek Magic』(2009)は百花絢爛(玉石混合)となるブレイク前後のチルウェイヴ・シーンにおけるひとつの極致として、世界的に高い評価を浴びた。インディー・ギターポップとバレアリック・ディスコの程よい配合と、Dayve独自の隠遁感覚のブレンドによる、ジャングリーなリズムと冷ややかな熱の籠もったシンセの音色がもたらす高揚感。キラーチューン「Bicycle」に顕著だが、それはまぎれもないダンス・レコードだった。タフ・アライアンスが設立したレーベル<Sincery Yours>からのリリースというのも印象的で、まさしく彼らやエール・フランスの延長線上にあるべきクールな作品である。

その後いくつかのリミックス仕事に(本人のブログで丁寧に整理されている)、トロ・イ・モワやクラウド・ナッシングらを擁する<Carpark>に移籍しての本作となるわけだが、さいしょに聴いたとき思わず手を叩いて笑ってしまった。頭の悪い音楽ジャーナリズムにおける最頻出クリシェのひとつ"おもちゃ箱をひっくり返したような"をこれでもかと体現する、ポップで衒いもなさすぎるシンセ音に一発ノックアウト(実際、アルバムの冒頭と末尾の曲名は「musicbox」=オルゴール!)。こうきたか!




ほわんほわん鳴る幻想的な音響、曲終盤での潔いギターソロ、そしてシンガーとして思い切り出ずっぱりな(必死になって背景に溶け込もうとするチルウェイヴ・マナーの対極に位置する)Dayveの自己主張っぷり! 二曲目の「Wait In The Dark」からして珠玉の内容である。以降につづくのも"クール"なんて言葉とは真逆の、呆れるほどロマンチックで果敢なポップ・ソングだ。孤独や悪夢を題材にしながらも、微笑ましいまでにチャーミング。

明らかにオールド・マナー回帰した作曲法について、あるレヴューでは「Motown-by-way-of-MIDI」なんて表現がされていたが、このあたりの変化は本人が制作過程で聴いていたという音楽を探るとナルホドとなる。
本人制作のアウトトラックとお気に入り曲をまとめたミックステープは、チルウェイヴァーたち全体の大インスピレーション源とも受け止められる。整理しよう。

01 Memory Tapes- “Fell Thru Ice 2″
02 The Cookies- “I Never Dreamed
03 Celestial Choir- “Stand On The Word
04 Lindisfarne- “Lady Eleanor
05 Gandalf – “Me About You
06 Amnesty – “We Have Love
07 Anna – “Systems Breaking Down
08 Memory Tapes – “Worries”
09 David Bowie – “Win
10 Funkadelic – “March To The Witch’s Castle
11 Black Keys – “Too Afraid To Love You (Memory Tapes Version)”
12 Memory Tapes – “Fell Thru Ice”
13 Memory Tapes – (music from Scott Eastwood art show)
14 Memory Tapes – “No. 79″

60'sガールズ・ポップにサイケ、古の英国フォークからファンクにガラージ、デヴィッド・ボウイ(ウォーペイントによる「Ashes To Ashes」白眉カヴァーもある意味でチル~的だったが、2011年のいま重要なのはベルリン三部作より『Young Americans』なのだなーとこの曲を再聴して実感)などジャンルはそれぞれだが、曲名を眺めただけでも逃避的で、通して聴くと幻想的かつダルい。まさに、リンディスファーンによる4曲目が収録された1970年作のアルバムのタイトル『Nicely Out Of Tune(素敵に調子外れ)』とでもいうべきか。

それで『Player Piano』に話を戻すと、その崩れ落ちんばかりに脆い人間的な感情を、精微な機械に再現させたかのようなところにサウンドの妙がある。音としては彼がかつて在籍し、解散してしまったアートバンドHail Socialの音楽性に一番近く、それらを強引に独力で構築し直しているかのようで、箱庭感もそこから生じているのだろう。生演奏も多くフィーチャーされているが、あまりにツルツルにトリートメントさせられた音響が有機性をスポイルしきっている。ピッチフォークのレヴュアーは"shopping mall karaoke booths"だの"unfinished, demo-level"だのとこき下ろしているが、その平坦な2Dサラウンドには香ばしい情緒が転がっている。なによりメロディがとろけんばかりに甘美だ。



↑まさしく「人間解体」なPV!!!!

2011年7月12日火曜日

ご挨拶

おはようございます。これを書いている今はイヤになるほど朝です。
新たにブログをはじめることにしました。

過去にはこんなのもやっていたんですが、イチから仕切り直しですちくしょう。
デザインなど色々と見切り発車ですが、ひとまずスタートです。
ここでは主に音楽のことに絞ってアレコレ書かせていただくつもりです。



ブログのタイトルはかのOingo Boingoの名曲から拝借させていただきました。内容の方も“不快で汚らわしく”していくかはまだ考え中ですが、誰かからお金をいただいているわけでもないですし、好き勝手に書き散らそうと思います。
ありがたい評論家さまの意見を拝聴させていただくよりも、結局は個々人の意見のひとつひとつこそがもっとも尊いという考えに基づく杜撰でたわいなく、弱気だけどわりかし自由な個人活動をフワフワしていこうと思います。
一言ぽつんと呟く日もあれば、肩が凝るくらい長い文章を書いたりもすると思いますが、いかんせん無精者。飽きたらあるとき突然死に絶えると思います。

まだ誰も読んでないと思いますが、どうぞよろしく。

”Tell me your secrets that no one should hear / Whisper them softly into my ear I won't tell, I won't tell” (「Nasty Habits