2011年12月31日土曜日

きちくまの2011年ベスト・アルバム30選 その3 #10-4

俺だけが感動の年間ベストもそろそろ大詰め。めんどくさくなってきて11位の作品を1位にして残りもぜんぶ繰り上げようか一瞬悩んだが、そんなことしてもしなくてもいつか人は死ぬし、大晦日の夜はぼっちで指咥えて紅白でも観てるんだろうな。あゆ頑張れー。

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10.TV-Resistori / TV-Resistori

IslajaやLau Nauなど日本でも人気のミュージシャンを擁し、ポスト・ロック/アヴァンギャルド寄りなレーベル・カラーで知られるフィンランドのFonal Recordsにおいて特異な地位を築いているバンドの三作目。"テレビの抵抗器"というバンド名のとおり、元々はキーボード主体の緩いローファイ・モンド・ポップを奏でていた彼らだが、機材類のトラブルやメンバーの変遷、そして前作から本作までの5年に及ぶインターバルなどの事情からスタイルを変化。アメリカン・ルーツ音楽や、ベルセバなどのインディー・ギターポップからの影響を反映させたという本作では生楽器主体の素朴なアンサンブルを展開。
まあ、どこをどう聴いてもベルセバよりはThai Pop Spectacular(古いタイ・ポップのコンピ盤)の世界観のほうがまだ近いというか、スタックリッジが田舎のビートルズならこちらは辺境のトゥイー・ポップ奇形児。フィンランド語の響きと屈折した曲調、ミドルテンポ主体の絶妙に微妙な構成、どこか牧歌的な男女混声コーラス…などがビザールな化学反応を起こし、特筆すべき曲もないのにリピートせずにはいられない中毒性を秘めている。誠実な作品だと思うが珍味として味わうのが吉。流行りの青春ギタポに食傷ぎみな人へ強くおすすめ。
◆Tv-resistori: Funtsi
◆Tv-resistori: Voi ei, ei voi olla totta


9.Summer Twins / Summer Twins

仕事もロクにせずに遊んでばかりいた猛省すべき一年だけど、今年に関してはマックス・ツンドラ関連の諸々とこのバンドのリリースに携われただけでも光栄だし誇りに思っている。一年ちょっと前に彼女たちの存在を知り、フリー・ダウンロードできるEP(本作の日本盤ボーナストラックにも一部収録)を耳にして、これが日本に紹介されなきゃウソだとレーベルに進言。本当に店頭に並んでしまい、おかげさまで好評です。ありがたや。
愛くるしいルックスと世界観、女子力抜群のファッションセンスにノスタルジックで甘酸っぱい音楽性の豊かさ…などブラウン姉妹のスター性は群を抜いているだけに、最初に本作のサンプル音源を聴いて全曲モノラル録音だと知ったときはブったまげたものですが、かわいい顔して甘ったるさ一辺倒に媚びず、ハードコアな一面をときおり覗かせるのも惚れどころ。本国アメリカでの所属先であるBurger Recordsはマイナーながら良質なバンドの宝庫で、カセットでのリリースにも熱を入れ、しかもパワーポップを中心に眠れる名盤の再発も活発(モンチコンのこの記事に詳しい。Milk 'N' Cookies最高!)。その流れか、本作のプロデューサーは誰もが知る伝説のハードコア・パンク・オリジネイターである、あのジャームスのドラマーDon Bolles! リリースが遅れるほどの難産レコーディングだったそうで、その甲斐あって出だし好調の一作。もう一皮むけてほしいけど、今だってもっと話題になっていいと思う。ビデオもとーっても秀逸。
◆I Don't Care(FREE DL)
◆Summer Twins - Crying in My Sleep
◆The Good Things
◆一部試聴(レーベルのページ)
◆日本語インタヴュー THE RAY Vol.013 014~015P(from here



8.Starfucker / Reptilians

元々はポートランド出身Josh Hodgesのソロ・プロジェクトとしてスタートしたこのバンドは、00年代の前半に腐るほどあった"良心的な(≒退屈な)"インディー・ソフト・ロック作、そこから一転エレクトロ・サウンドを導入した野心的なEP『Jupiter』を経て名門Polyvynalに移籍。ワイバーン飛び交うファミコンRPG調なジャケットも狙いまくりな自身2作目となるフルアルバムでは、ダンス・ポップからエレクトロ・シューゲイザー~チルウェイヴっぽい音楽性にまで発展していく…って、節操なさすぎる! 中学生レベルのバンド名(ストーンズのボツになった楽曲名が由来。自分の世代的には、先にNINの大名曲を思い出してしまう)と同様に、拘りより先に流行と評価に飛びつく(言いすぎ?)軽くてスノッビーな執念は見事だが、それ以上に見事なのは曲作りの才能で、最初にアルバム序盤の「Julius」「Bury Us Alive」におけるきらめく電子音の渦を浴びたとき気持ちよすぎてどうにかなってしまうと思った。MGMTあたりにも通じるヒッピーライクなファッション、作中に思想家/研究家のアラン・ワッツのダイアローグを挿入するセンスなど鼻につくところ盛りだくさんで、どうしてこんなに好きになったのか自分でも謎だが、どこか安くて俗っぽいセンチメンタリズムに涙してしまう。この写真とかもチャラくて泣けるもの。にしても、今年のPolyvinylはディアフーフ、カシオキッズ、Loney Dearと良作ぞろいだった。
あと今さらの話をすれば、先述したEP(09年作)に収録のシンディ・ローパーのカヴァーは今もいろんなところで耳にする定番で、あらゆる女子がキャッキャと跳ねる鉄板トラック。スピンすればモテること請け合い。俺にもファックさせてよ。



7.Sondre Lerche / Sondre Lerche

10代でデビューを果たしたこのノルウェー・ベルゲン出身のSSWは早熟なだけでなく移り気なアーティストで、00年代を通して流麗なポップスからチェット・ベイカー風の歌ものジャズにダンサブルなギター・ロックまで、本人のルーツやそのときの気分をダイレクトに作品に反映させつづけてきた。
原点に立ち返って華々しいオーケストラル・ポップを魅せた09年の大傑作『Heartbeat Radio』につづく本作は、彼が近年活動の中心地としているブルックリンで隆盛を誇るインディー・ロックからの影響がモロに露見される野心作となっている。アニマル・コレクティヴオーウェン・パレットの楽曲のカヴァーを発表し、本人も羨望交じりにその魅力を公言してきたが、本作ではプロデュースに盟友Kato Ådland(ベルゲン・シーンを支える才人で、Major Seven & The Minorsとしての活動も)のほかにアニマル・コレクティヴやディアハンターetc...との仕事で知られる売れっ子Nicolas Vernhesを起用。洒脱なコード進行や達者なメロディ・メイクといった持ち味が生々しくてときに暴力的なアレンジによって強化されており、バカラック調の冒頭「Ricochet」で鳴るドラムの響きや、「Go Right Ahead」での耳つんざくようなギターなど、驚異的に鳴りのよい録音にも唸らされる。従来よりもハードボイルドでヒリヒリした仕上がりとなって、みずからの名をアルバム・タイトルに冠したのも必然といえる(本作が嫁さんの名前に由来する自身のレーベルMona Recordsからの初リリース作というのも関係あるだろう。ちなみに嫁さんは女優で、ソンドレ作品のPV監督も務めている)。
弾き語りメインの「Domino」を聴いてもわかるように、技巧派SSWとしては特筆すべきグルーヴィーなセンスもこの人の長所で、そのあたりはライブでもスクリッティ・ポリッティをカヴァーしていたりするし本人も自覚的なのだろう。ピッチフォークの「The Worst Album Covers of 2011」にも見事選ばれてしまったが、個人的には色合いよりも生え際が気になってならない。


6.Thomas Dolby / A Map of the Floating City

先行リリースされたEPを聴いたときはここまでの内容になるとは予想だにしなかったが、80年代を代表するテクノ・ポップ「彼女はサイエンス」から29年、フルアルバムとしては92年の『Astronauts & Heretics』以来となるカムバック作は楽曲の充実ぶり以外にも画期的なトピックが多く、最高傑作と呼んで差し支えなさそうなほどの充実ぶりを誇っている。
かつてマッド・サイエンティストと呼ばれた鬼才は、ここではアダルト・オリエンテッド・シンセ・ポップとでも称したい、年齢を重ねたからこその落ち着いて味のある楽曲を披露。ビートルズ好きの男とティアーズ・フォー・フィアーズのファンである女のふたりが恋に落ち、だだっ広い地平を旅していく…ブルーグラス・ナンバー「Road To Reno」の曲調や歌詞に顕著なとおり、かつてのファンキーさも維持しつつどこか懐古的なフィーリングが心地よい。“Urbanoia”“Amerikana”“Oceanea”の三章仕立てとなっている本作はアレンジも実に巧妙で、レジーナ・スペクターをフィーチャーした攻撃的な「Evil Twin Brother」、蛙の鳴き声を口琴で表現した(演奏しているのはイモージェン・ヒープ)「The Toad Lickers」、オートチューンを用いた穏やかな「Oceanea」(元フェアグランド・アトラクションのエディ・リーダーとのデュエット)と、曲ごとに豊かな表情を見せる。
また、ファンタジーとしてのアメリカーナ追求という“Amerikana”のテーマやアルバム全体のムードや節回しが、かつて彼がプロデュースを務めたプリファブ・スプラウトの作品を少なからず想起させるところもあって涙せずにいられない(不器用なデモ音源がそのまま発表されてしまったような09年の『Let's Change The World With Music』も、今のトーマスが携わっていればまったく違う作品になったんだろうな…)。一時期は音楽活動を引退し、IT会社を立ち上げ音声ファイルや携帯電話の着信音などを手掛けていた彼だが、そんなキャリアを活かして本作をサントラとしたゲーム・サイトiPhoneアプリをプロモーションに活用したり、ファン・フォーラムで音源を先行リリースしたりと音楽業界のあり方に一石を投じている。ってことでアプリは俺も前にやってみたけど、蛙がどうも気持ち悪くてなぁ…。洋ゲーってむずかしいよね。


5.The Elected / Bury Me In My Rings

2011年に入ってライロ・カイリーが事実上の解散状態にあることがアナウンスされたが、彼氏とよろしくやってるジェニー・ルイスに隠れて、バンドのもう一方の頭脳だったブレイク・セネットは(少なくともネット上では)ここ数年は消息不明状態だった。本来は彼のサイド・プロジェクト的な位置付けだったThe Electedとして三作目となるこのアルバムのテーマは"死"。アルバム・タイトルも"輪のなかに僕を葬り去って"とでも訳せばいいだろうか。06年の前作が西海岸の陽気が全開な『Sun, Sun, Sun』だっただけにそのギャップにも面喰ってしまうが、アルバムを再生してのっけから聴こえてくるのが"君を愛するために生まれてきたんだ/これからもそうするつもりだよ/たとえ別のいい人が君にいるんだとしても"(「Born To Love You」)というほろ苦いフレーズなのだからたまらない。
多くエリオット・スミスに喩えられ続けてきた儚い歌声と遁世的な浮遊感はライロ・カイリー作品においてもささやかに輝いていたが、ここでは一層の諦観に満ちている。かといって息苦しい作品かといえばそうでもなく、彼一流のソングライティングの才が冴えわたって暗いムードも重くならず、気楽に聴きたくなる軽やかな旨みに溢れている。今回とりあげる30枚のなかでも本作はぶっちぎりで地味だが、ほとんどの曲でサビ後に粋な転調が用意されているのが嬉しいし(「Look At Me Now」がわかりやすい例)、繰り返し聴くことでじんわり沁みてくる。少なくともレコーディング作に限っていえば、ラフな路線に一辺倒なジェニーに比べて、彼の丁寧で実直なスタンスはあまりに過小評価されすぎだろう。


4.ツチヤニボンド / 2

自身のブラジル音楽趣味を追求することで日本のシティ・ポップスにも通じる洗練ぐあいと妙な違和感を醸し出していた前作に比べ、て、4年ぶりとなる本作のもつ疾走感は一見わかりやすくカッコいいがやはりどこかおかしい。テレヴィジョンやラモーンズあたりのパンクに割と最近になって感化されることで生まれたサウンドとのことだが、中心人物である土屋貴雅氏はパンクのどこをどう聴いてこんな音を作り上げたのだろう。そもそも本気でCDを売るとするなら畦地梅太郎の版画をジャケに用いるセンスは渋すぎるし、AIR JAM帰りの客にこれを聴かせてもパンクだとあんまり認めてもらえないだろう。
12月に催されたディスクユニオン吉祥寺店でのインストア・ライブでレコード店に通いつめてきた思い出を土屋氏は語っていたが、たとえばロッキング・オンやガイド本みたいな教科書よりも自分の嗅覚を頼りに、限られた手持ちで少しでもいい音源を入手することの執念、試聴機への愛情がそこからは感じられた。
昨今の若いミュージシャンがインターネット・ネイティヴならではの感性や手法で情報や教養の取捨選択をスマートに行っているとすれば、土屋氏や他のメンバーたちのアナログで前時代的な音楽への執念と膨大でリスニング量(あるいはイレギュラーなリスニング遍歴)を血肉化して基礎体力とし、常人の発想では本来繋がらないものを強引にくっつけて噛み砕く腕力と咀嚼力でもって、猛烈なテンションや跳躍力に繊細なリリシズムまでを生みだす気ままな武骨さがこのアルバムにはある。「○○系」と手ごろなジャンルに安易に収まらず、オンリーワンな「ぼくのかんがえたパンク」を徹頭徹尾に貫いているのが本作の魅力。単なるトレースや二次創作とは異なる、流行に乗れない不器用な自分史でありながら勘違いを恐れぬダイナミックなセンスが頼もしく、聴いたことのない音楽を鳴らそうとする姿勢はいまどき(アティチュードとしての)結構なポストパンクっぷりでもある。
柔軟で緩急自在の演奏も聴きどころで、クラウトロック的なリズムと南米音楽の享楽感がブレンドされたインストの「クロフネ」にはじまり、乾いたスネアの音を軸にミニマルな演奏と一転しての急転調が刺激的な「花子はパンク」、間奏のつんざくギターソロも強烈な"まともな"パンク・ナンバー「ふわふわ」、トライバルなリズムが妖しくファンキーな密室R&B「メタルポジション」と、前半だけでも印象的なナンバーが揃っている。パンクパンクと書いてきたがアルバム後半には前作譲りの静謐でメロディアスな曲も収録されており、そのなかでも珠玉のハイライトはやはり、アーサー・ラッセルとミルトン・ナシメントが舵をとる幽霊船でひとりギター片手にくだを巻いているような「夜になるまで待って」の零れ落ちんばかりにおセンチな響きだろう。一度食事の席をともにしたとき土屋氏は(意外ながら)ブルーノ・マーズの歌唱力を賞賛していたが、いやいや氏のファルセットもしんみりくるのだ。あとはもう少しライブをやってくれれば…。

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