2011年12月31日土曜日

きちくまの2011年ベスト・アルバム30選 その4 #3-1



3.White Shoes & The Couples Company / Album Vakansi

一応先に註釈しておくと、本国インドネシアでは昨年発表されていた作品だが、日本とアメリカでは今年リリースされたので、遠慮なく今回の30選にも加えさせていただく。
本作の解説の依頼をいただいてからというもの、今日まで思い出しては取り出して聴き入ってしまう愛聴盤になってしまった。英米のロックにはない、エキゾチックで素朴な陽気さと渋谷系も真っ青の都会的洗練が絶妙なバランスで融合しているのがすばらしい。本人たちの佇まいにも惚れ込んでしまったし、曲のクオリティーも高く、夏に聴きたいパワフルなソフトロック。これは5年ぶりとなる2作目のアルバムでいい意味での脱インディー色を果たし、楽曲のアレンジも華やかに。こういう爽やかな音楽こそラジオで流れてほしい!




ローリング・ストーンズ紙(米のほう)が選んだインドネシア・ソングのオールタイム・ベストにも前作(こちらもぜひ聴いてね)収録の名曲「Senandung Maaf」が129位にランクインしているところからも国民的なインディー・バンドであることがうかがえるが、同じく121位にランクインしている伝説的歌手Fariz RMの「Selangkah Keseberang」を本作中で本人を招いてカヴァーしていたり、150位のMocca(こちらもかの地で名を馳せる素敵なギターポップ・バンド)の2011年7月のラスト・ショウで共演を果たしていたりと、調べれば調べるほど現地シーンの相関関係が見えてくるのも新鮮でおもしろかった。
このアルバムは文句なしの傑作だし詳しい話はぜひ日本盤を手にとって解説を読んでもらえると幸いなんですが(宣伝)、とにかくこの超かっこいいバンドを日本でも観たいです。生で拝みたくなること請け合いのライブ動画その① その②。あと、ヴォーカルのAprilla Apsari嬢はバイク好きであると同時にイラストのセンスがとんでもなく抜群というのも萌え情報として付け加えておこう。








2.Ventla

かつてプラモミリオンセラーズ名義で2枚のアルバムを残している鈴木周二氏によるブログ「買ったCD」(まんまですな)を一時期愛読していて、ここからメンヘラ歌手Polly Scattergoodやウルグアイの天才SSWのMartín Buscagliaだったりを知ることができて大変ありがたがったのだが、今年に入ってパタっと更新が止まってしまった。あららと心配していたら、更新に飽きたので変わりに音楽を作ると表明。そうして突如始まったプロジェクトが"宇宙船"を意味するというVentlaである。
tumblrにあるように100枚のフリー・ダウンロードできるアルバムを作ることを宣言し、実際に7月に最初の3枚が発表されてから大みそかまでに10枚のアルバムが発表、掲載されている。とんでもない制作スピードだ。
キャッチーながら毒とひねりをもつメロディーとヘタウマな歌い回し、一曲の短さと情報量の密度の濃さ…などの特徴的な作風はそのままに、エコーの効きまくったメランコリックなシンセ・ポップへと接近。露骨にチルウェイヴを意識した音世界を展開している。90年代アイドルポップやハロプロの熱心なファンでもある(こんなブログもされているし、プラモ~時代にはMy Little Lover「Hello Again」の秀逸すぎるカヴァーを残している)氏の手による哀愁メロディと多種多様の機材(右下に記載)を駆使したドリーミーな音響(かつてのトイポップ的な妙味も随所で顔を出す)のコンビネーションが心地よすぎて、どこか昔のSFにも通じる懐かしさを訴えかけてくるよう。
今年はネットレーベルやらbandcampやらの盛り上がりが見逃そうにも見逃せず、海外ブログも巡回しつつフリー・ダウンロードできるアルバムやミックステープを漁りまくってみたが、Ventlaはアートワークもハイセンスだし(※追記→メロディや歌詞より先にアートワークありきとインタヴューで答えてる!!)、企画も内容も世界中のどれよりも正直一番おもしろかったし感情移入できた。90年代渋谷系の時代にデビューし、最新の音楽も聴きまくり流行を押さえている方だからこその懐の深さ。実際、ネット上でも当然のように話題になり、第三者によるVentla音源オンリーのmixもつくられている。
とりあえず現時点で4時間近い音源が発表されているわけだが、楽曲でいえば「匍匐前進」(『paralyzed』)「twilight boombox」(『paracusia』)「trig」(『ten』)あたりが特によい…っていうか個人的に好き。氏のlast.fmによるとBuono!をめちゃくちゃ聴いているみたいだし、マックス・ツンドラともこんなやりとりをしているし、好きになる要素しかないです。






1.Architecture In Helsinki / Moment Bends

長々とここまで書き連ねてきたが、今年一番嬉しかったのは昔から大好きだったこのバンドが復活して文句なしの最高傑作を届けてくれたことだ。先行発表されたシングル「Contact High」はそれから一週間で50回くらいリピートしたし、アルバムもお腹いっぱいになるまで聴いてるつもりで未だにぜんぜん飽きない。これが万人にとって今年を象徴するアルバムになりっこないのは俺だってわかってるが、一番楽しくてポップなアルバムということならこれを推すしかない。マジでカムバックしてくれてありがとう。

03年に最初のアルバム『Fingers Crossed』をリリースしたとき、オーストラリア・メルボルン出身のこのバンドには8人もメンバーがいた。リコーダーや木琴にフルートなどを持ち替えながら、和気あいあいとアンサンブルを奏でる典型的なトゥイーポップ・バンドだった。次の『In Case We Die』は賑やかさを維持しつつもダンサブルな色合いも強くなったコンセプト作で、対となるリミックス・アルバム(ホット・チップやDAT Politicsも参加)も充実した内容となり、kitsuneのコンピに曲が収録されたりもした。三作目となる『Places Like This』はPolyvinylから。野性味あふれるエレクトロ・ファンク路線へと変貌し、トロピカル風味は2011年の空気を先どっていたと言えなくもないが、実際このころには初期の可愛らしさが抜けて別のバンドみたいになってしまい、作品のクオリティーは依然として高いもののメンバーも2人減ってしまう。
来たるべき4作目は『Vision Revision』になるというアナウンスが流れてからしばらくして、公式ページの更新のほとんどが止まってしまう。煮詰まった予兆は三作目からのEP『Like It Or Not』に収録された「Beef In A Box」あたりで当時から感じられたが(プログレばりに凝っているファンク・ナンバー。俺は好きだけど…)そこからなんとか持ち直し、2年の年月と辛苦をかけて本作はつくられた。気がつけばバンドは地元の優良レーベルModularに移籍をはたし、メンバーはさらにもう一人減っていた。




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写真で見比べても結構な変化だ。老けたなって正直最初は思った。ピッチフォークは本作『Moment Bends』のレヴュー冒頭で読者にこんな疑問を投げかけている。
早熟でおませなトゥイー・バンドがいつか直面する問題がある。"どのように成長して、おなじみの鉄琴とお別れするか?"
たしかにこれまでAIHの売りといえばチルディッシュな無邪気さだ。過去のPVを観ればそれがよくわかる。メンバーたちがカメラの周りを笑顔でぐるぐる回る「It' 5」。トランポリンで跳ねまわる「Hold Music」。これらに比べれば、本作からの「Contact High」で観られる80年代チックなファッションの紳士による寸劇は若干元気がないかもしれない(楽曲は最高だけどな!)。ジャケットのデザインもこれまでのカラフルなものに比べるとやや精彩を欠いていると思う。
だが、紆余曲折を経ての精力を注いだリリースだけあってとにかく曲の粒が揃っている。80年代風シンセのきらめく虹のようなサウンドも気持ちいいが、本作の(そしてこのバンドの)キモは息の合ったコーラスワーク。男女混声でシンセのフレーズとうまく重なりあい、極上の快楽性を生みだしている(「YR Go To」「Sleep Talkin'」あたりの楽曲に顕著)。本作からは唯一、08年時点で発表されていたシングル曲「That Beep」は当時ピンとこなかったが現在のシンセ・ポップ再興を予期していたかのような節もあるナンバーで、気がつけば紅一点になってしまったKellie Sutherlandの歌声はほぼ全編で大活躍だ。
結果的に隅々まで手が込んで均整のとれたちょっぴり作品となっていて、無邪気だったころが恋しくなくもない。でも、いい歳を迎えてしまった大のオトナが「僕は脱獄者/君も脱獄者」と歌う、とびきりハッピーでバウンシーな「Escapee」を聴いているとそれだけで幸せな気持ちになれる。ちなみにその曲のビデオは親と子の葛藤や巣立ちを題材に扱っている。新進気鋭のニコラス・ジャーやサリー・セルトマンによるリミックスも話題になった「W.O.W.」歌詞もステキだ(たぶん妊娠というか、子を設けることの感動についての曲だよね)。立派に老けて大人になったけど、相変わらず夢見がちで、ロマンチックでヘンテコなことも考えてる。たまに真剣なこともマジメに考える。そういうのに弱いもんで。

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